口約束だけでは危険?フィリピン不動産売買契約の成立要件と注意点:最高裁判例解説

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口約束だけでは危険?不動産売買契約は書面で!最高裁判例から学ぶ契約成立の重要ポイント

[G.R. No. 123908, February 09, 1998] レオン・コー対控訴裁判所、ベニート・ンゴ事件

導入

「言った言わない」のトラブルは、ビジネスの世界でも日常茶飯事です。特に不動産取引のような高額な契約においては、口約束だけでは後々大きな紛争に発展する可能性があります。もし、不動産売買契約が口約束だけで成立すると信じていたら、この最高裁判所の判例はあなたにとって警鐘となるでしょう。

本判例、レオン・コー対控訴裁判所、ベニート・ンゴ事件(G.R. No. 123908)は、口頭での合意に基づいて不動産売買契約が成立したと主張した原告の訴えを退け、不動産取引においては契約内容を書面に残すことの重要性を改めて明確にしました。本稿では、この判例を詳細に分析し、不動産取引における契約成立の要件、口頭契約のリスク、そして紛争を未然に防ぐための対策について解説します。

法的背景:フィリピン民法における契約成立要件

フィリピン民法は、契約の成立要件として、当事者の同意、目的物、約因の3つを定めています(民法第1318条)。売買契約においては、売主が所有権を移転し、買主が代金を支払うという合意が不可欠です(民法第1458条)。

契約は、原則として当事者の合意によって成立し、必ずしも書面による必要はありません。しかし、不動産売買契約に関しては、詐欺防止法(Statute of Frauds)と呼ばれる法原則が存在し、一定の契約は書面によらなければ執行できないとされています。フィリピンでは、この原則は民法第1403条第2項に具体化されており、不動産売買契約やその権益に関する契約は、書面による合意または覚書がない限り、裁判所で強制執行を求めることができません。

民法第1475条は、売買契約の成立時期について、「目的物と代金について当事者間の意思の合致があった時に成立する」と規定しています。つまり、売買契約は、売る側と買う側の間で、何をいくらで売買するのかについて合意が成立した時点で成立するのです。しかし、不動産売買契約の場合、前述の詐欺防止法の原則により、口頭での合意だけでは契約が成立したとしても、裁判所でその履行を強制することが非常に困難になります。

事例の概要:レオン・コー対ベニート・ンゴ事件

事の発端は、ベニート・ンゴが購入した土地を巡る紛争でした。レオン・コーは、自身がンゴから問題の土地の一部を口頭で購入したと主張し、土地の移転登記を求めて訴訟を提起しました。

事件の経緯を時系列で見ていきましょう。

  1. 1976年9月3日:ベニート・ンゴは、ナザリオ・ゴンザレスから土地を購入。
  2. 1976年11月3日:アントニオ・オンが、自身もゴンザレスから同じ土地を購入したと主張し、ンゴに対して訴訟を提起。
  3. 1979年3月11日:中国人商工会議所が紛争解決のため仲介に入り、会議を開催。
  4. 会議では、土地を分割し、オンとンゴがそれぞれ一部を取得する案が提示されました。
  5. レオン・コーは、この会議でンゴから土地の一部(問題の土地)を49,500ペソで購入することで合意したと主張。
  6. 1979年4月23日:オンとンゴは和解書を作成し、裁判所に提出。
  7. レオン・コーは、ンゴとの売買契約を主張し、訴訟に参加(介入)。
  8. 一審裁判所は、コーの主張を認め、ンゴに土地の移転登記を命じる判決。
  9. 控訴裁判所は、一審判決を破棄し、コーの訴えを退ける判決。
  10. 最高裁判所は、控訴裁判所の判決を支持し、コーの上訴を棄却。

最高裁判所は、コーが売買契約の証拠として提出した商工会議所の議事録には、売買契約の内容が明確に記載されていないことを指摘しました。また、コー側の証人たちの証言も、土地の特定や支払い状況に関して一貫性がなく、信用性に欠けると判断しました。裁判所は、判決の中で次のように述べています。

「原告(コー)の証拠は、民法第1458条が定める売買契約の成立を示すものではない。売買契約は、契約当事者の一方が確定的な物を譲渡する義務を負い、他方がその代金を支払うことを約する契約である。民法第1475条によれば、売買契約は、目的物と代金について意思の合致があった時に成立する。」

さらに、裁判所は、代金支払いの方法に関する明確な合意がないことも、契約不成立の重要な理由としました。コーは、一部代金を支払ったと主張しましたが、ンゴはこれを受け取っておらず、小切手を破棄した事実も、売買契約の合意がなかったことを裏付けると判断されました。

実務上の意義:口頭契約のリスクと書面契約の重要性

この判例から明確になるのは、フィリピンにおける不動産取引においては、口頭での合意だけでは非常にリスクが高いということです。特に、高額な不動産取引においては、契約内容を書面に明確に記録し、当事者双方が署名することが不可欠です。

口頭契約は、証拠が残りにくく、後々「言った言わない」の争いになりやすいものです。裁判所は、証拠に基づいて事実認定を行うため、口頭契約の内容を立証することは非常に困難です。本判例のように、議事録や証人証言だけでは、売買契約の成立を証明するには不十分と判断されるケースも少なくありません。

不動産売買契約を締結する際には、以下の点に特に注意しましょう。

  • 書面による契約書の作成:契約内容(目的物、代金、支払い方法、引渡し時期など)を詳細に記載した契約書を作成し、弁護士などの専門家によるリーガルチェックを受けることを推奨します。
  • 契約内容の明確化:契約書には、当事者間の合意内容を明確かつ具体的に記載します。曖昧な表現や解釈の余地がある条項は避け、具体的な文言を用いるように心がけましょう。
  • 証拠の保全:契約交渉の過程でやり取りしたメールや書類、議事録などは、紛争が発生した場合の証拠となる可能性がありますので、適切に保管しておきましょう。

キーポイント

  • フィリピンの不動産売買契約は、詐欺防止法の原則により、書面によらなければ裁判所で強制執行が困難。
  • 口頭での合意だけでは、契約成立の証明が難しく、紛争のリスクが高い。
  • 不動産売買契約は、必ず書面で作成し、専門家によるリーガルチェックを受けることが重要。
  • 契約書には、契約内容を明確かつ具体的に記載し、曖昧な表現は避ける。

よくある質問(FAQ)

  1. Q: フィリピンでは、口頭契約は一切認められないのですか?
    A: いいえ、口頭契約も契約として有効に成立する場合があります。しかし、不動産売買契約や債務保証契約など、法律で書面によることが要求されている契約については、口頭契約だけでは裁判所で強制執行を求めることが困難です。
  2. Q: 不動産売買契約書には、どのような項目を記載すべきですか?
    A: 最低限、売主と買主の氏名・住所、不動産の詳細な情報(所在地、地番、面積など)、売買代金、支払い方法、引渡し時期、所有権移転登記の手続き、契約違反の場合の責任などを記載する必要があります。
  3. Q: 契約書は英語で作成する必要がありますか?
    A: フィリピンでは、英語とフィリピノ語が公用語です。契約書は英語またはフィリピノ語で作成することが一般的ですが、日本語など他の言語で作成することも可能です。ただし、裁判所での手続きにおいては、英語またはフィリピノ語訳の提出が求められる場合があります。
  4. Q: 契約書に署名する際の注意点はありますか?
    A: 契約書の内容を十分に理解した上で署名することが重要です。不明な点や納得できない条項があれば、署名する前に弁護士などの専門家に相談しましょう。また、契約書は原本を複数作成し、当事者双方が保管するようにしましょう。
  5. Q: 売買契約締結後、紛争が発生してしまった場合はどうすればよいですか?
    A: まずは、相手方と誠実に話し合い、解決策を探ることが重要です。それでも解決しない場合は、弁護士に相談し、法的手段を検討することになります。

不動産取引は、人生における大きな決断の一つです。安全な取引のためには、契約書をしっかりと作成し、専門家のアドバイスを受けることが不可欠です。ASG Lawは、フィリピン法に精通した専門家が、不動産取引に関するご相談から契約書作成、紛争解決まで、日本語と英語でトータルサポートいたします。不動産取引でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

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Source: Supreme Court E-Library
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