個人株主との共同申し立てにおける会社更生手続に対する証券取引委員会(SEC)の管轄権
[ G.R. No. 131729, 平成10年5月19日 ]
はじめに
アジア通貨危機の影響がフィリピン経済にも及んだ時期、経営難に陥った企業グループEYCOは、債務支払猶予をSECに申し立てました。しかし、債権者であるユニオンバンクは、SECには個人株主を含む共同申し立てを管轄する権限がないと主張し、裁判所に訴訟を起こしました。本件は、SECの管轄権の範囲と、行政救済を尽くすべきかどうかが争点となりました。
法的背景:SECの管轄権と会社更生手続
フィリピンでは、大統領令902-A号第5条(d)に基づき、SECは会社、パートナーシップ、その他の団体による支払猶予の申し立てを管轄する権限を有します。しかし、この条項は、個人による申し立てを認めていません。関連する法律として、1956年破産法がありますが、これは個人や企業が裁判所に支払猶予を申し立てることを認めています。本件の核心は、個人株主が会社と共にSECに支払猶予を申し立てた場合に、SECが管轄権を行使できるかどうかという点にあります。
最高裁判所は、過去の判例(Chung Ka Bio対中間控訴裁判所事件、Traders Royal Bank対控訴裁判所事件、Modern Paper Products, Inc.対控訴裁判所事件)で、SECの管轄権は会社等の団体に限定され、個人には及ばないとの立場を明確にしてきました。これらの判例は、行政機関であるSECは法律で明示的に認められた権限のみを行使できるという原則に基づいています。
重要な条文として、大統領令902-A号第5条は以下のように規定しています。
「第5条 証券取引委員会は、既存の法律および法令に基づき明示的に認められた、登録された会社、パートナーシップ、その他の団体に対する規制および裁定機能に加え、以下の事項に関する訴訟を審理し決定する原管轄権および専属管轄権を有する。
x x x x x x x x x(a) 会社、パートナーシップ、または団体がすべての債務を弁済するのに十分な財産を所有しているが、それぞれの期日に支払うことが不可能になると予見される場合、または会社、パートナーシップ、または団体が負債を弁済するのに十分な資産を所有していないが、本法令に基づき選任された会社更生管財人または経営委員会によって管理されている場合の、会社、パートナーシップ、または団体による支払猶予の申し立て。(大統領令1758号により追加)」
事件の経緯:ユニオンバンク対EYCOグループ
1997年9月、経営危機に瀕したEYCOグループと個人株主であるユティンコ一家は、SECに支払猶予、会社更生管財人の選任、更生計画の承認を求める共同申し立てを行いました。これに対し、ユニオンバンクは、SECには個人を含む共同申し立てを管轄する権限がないとして、SECへの申し立ての却下を求め、同時に裁判所にEYCOグループとユティンコ一家を相手取って債権回収訴訟などを提起しました。
SECの聴聞委員会は当初、支払猶予を認め、暫定管財人を選任しましたが、ユニオンバンクはこれを不服として控訴裁判所に上訴しました。控訴裁判所は、ユニオンバンクが行政救済を尽くしていないこと、フォーラム・ショッピング(重複提訴)に該当することを理由に、ユニオンバンクの訴えを退けました。ユニオンバンクはこれを不服として最高裁判所に上告しました。
最高裁判所は、以下の2つの主要な争点を審理しました。
(1) SECは、会社等の団体と個人株主が共同で申し立てた支払猶予の申し立てを管轄する権限を有するか。
(2) ユニオンバンクは、SECの管轄権の行使を争うために控訴裁判所に直接上訴したことは、行政救済の不尽とフォーラム・ショッピングに該当するか。
最高裁判所は、過去の判例を踏まえ、SECの管轄権は会社等の団体に限定され、個人には及ばないとの判断を示しました。しかし、共同申し立ての場合でも、会社等の団体に関する申し立て自体を却下する必要はなく、SECは会社等の団体に関する部分については管轄権を行使できるとしました。個人株主に関する部分は、SECの管轄外として却下されるべきであるとしました。
裁判所の意見の中で、特に重要な部分を引用します。
「最高裁判所は、上記の結論にもかかわらず、本件で私的回答者が提起した訴訟が全面的に却下されるべきであるという請願者によって擁護された理論を支持しない。その理由は、SECが会社法人と共同で支払猶予の申立てを行う個人に対して管轄権を取得できないことは事実であるが、Chung Ka BioとMPPIのより詳細な精査は、本件のような申立てが会社法人の共同請願者に関しても同様に却下されなければならないことを示唆するものではないからである。Chung Ka BioとMPPIがそれぞれ宣言したのは、「アルフレド・チンは、単なる個人として、SEC事件第2250号の共同請願者として認められることはできない」と「被答弁者控訴裁判所は、支払猶予の申立てを却下するよう命じたのは正しかったCo夫妻に関する限り。」[下線は筆者]
さらに、最高裁判所は、ユニオンバンクが行政救済を尽くしていないこと、フォーラム・ショッピングに該当することを認め、控訴裁判所の判断を支持しました。SECの決定に不服がある場合は、まずSEC委員会に上訴すべきであり、直接裁判所に訴えることは認められないとしました。また、ユニオンバンクはSECと裁判所の両方に同様の争点を持ち込んだとして、フォーラム・ショッピングにも該当すると判断しました。
実務上の教訓:会社更生手続における注意点
本判決から得られる実務上の教訓は、以下のとおりです。
- SECが管轄権を持つのは、会社、パートナーシップ、その他の団体による支払猶予の申し立てに限られる。個人株主が共同で申し立てる場合、SECは個人株主に関する部分については管轄権を持たない。
- 個人株主が支払猶予を申し立てる場合は、裁判所に対して申し立てる必要がある。
- SECの決定に不服がある場合は、まずSEC委員会に上訴するなど、行政救済を尽くすべきである。
- 同様の争点をSECと裁判所の両方に持ち込むことは、フォーラム・ショッピングに該当する可能性があるため、避けるべきである。
重要なポイント
- SECの管轄権は法律で限定されており、拡大解釈は認められない。
- 手続きの選択を誤ると、訴えが却下される可能性がある。
- 行政救済の原則は重要であり、これを遵守する必要がある。
よくある質問(FAQ)
Q1: SECはどのような種類の会社更生手続を管轄しますか?
A1: SECは、会社、パートナーシップ、その他の団体による支払猶予、会社更生、および清算に関する申し立てを管轄します。ただし、個人による申し立ては管轄外です。
Q2: 個人株主が会社と共に支払猶予を申し立てることはできますか?
A2: はい、できますが、SECは会社に関する部分のみを管轄し、個人株主に関する部分は管轄外となります。個人株主は、裁判所に別途申し立てる必要があります。
Q3: SECの決定に不服がある場合はどうすればよいですか?
A3: まず、SEC委員会に上訴する必要があります。SEC委員会での判断後も不服がある場合は、裁判所に上訴することができます。
Q4: 行政救済を尽くさずに裁判所に訴えることはできますか?
A4: 原則として、行政救済を尽くさずに裁判所に訴えることは認められません。例外的に認められる場合もありますが、限定的です。
Q5: フォーラム・ショッピングとは何ですか?
A5: フォーラム・ショッピングとは、同一の争点について、複数の裁判所や行政機関に重複して訴えを提起することです。これは、手続きの濫用として禁止されています。
Q6: 本判決は、今後の会社更生手続にどのような影響を与えますか?
A6: 本判決は、SECの管轄権の範囲を明確にし、個人株主が関与する会社更生手続における手続きの選択について、重要な指針を示しました。今後の実務において、SECと裁判所の管轄区分を明確に意識する必要性が高まります。
Q7: 債務超過の会社は、SECに会社更生を申し立てることはできますか?
A7: はい、債務超過の会社でも、更生の可能性があると認められれば、SECに会社更生を申し立てることができます。
Q8: 会社更生手続において、債権者はどのような役割を果たしますか?
A8: 債権者は、会社更生計画の策定や承認プロセスにおいて重要な役割を果たします。債権者集会で議決権を行使したり、更生計画案に対して意見を述べることができます。
Q9: 会社更生手続は、どのくらいの期間がかかりますか?
A9: 会社更生手続の期間は、個別のケースによって大きく異なりますが、一般的には数年から数年単位の期間を要することが多いです。
Q10: 会社更生手続を弁護士に依頼するメリットは何ですか?
A10: 会社更生手続は、複雑な法律問題や手続きが伴うため、専門的な知識と経験を持つ弁護士に依頼することで、適切な対応が可能となり、円滑な手続きの進行が期待できます。
本件のような会社更生手続に関するご相談は、ASG Lawにご連絡ください。当事務所は、フィリピン法務に精通した専門家が、お客様の状況に合わせた最適なリーガルサービスを提供いたします。まずはお気軽にご相談ください。


Source: Supreme Court E-Library
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